今回は「山中鹿介の大和魂」コラムです。以前、所用で上京した折、ある先輩に吉祥寺東急百貨店でトンカツ定食をご馳走になりました。その翌日、松山に戻ってお礼の電話をした時、次回は新宿ルミネの「三尺三寸箸」で食べようと話が盛り上がり、ここから何故か山中鹿介の武道談義で盛り上がりました/
歴史に詳しい方は山中鹿介をご存じとは思いますが、知らない読者もいらっしゃると思いますのでご説明いたします。
山中鹿助幸盛(やまなかしかのすけゆきもり)は、安土桃山時代に尼子家に仕え『山陰の麒麟児』と謳われた武勇に優れた武将です。しかし尼子家は、毛利との戦いに敗れ、次々と武功を立てる山中幸盛の奮闘もむなしく滅んでいきます。山中鹿助は、尼子家残党とともに三度決起して尼子家再興を目指しました。そして、いかなる困難があろうとも必ずや尼子家を再興させると、敢えて不吉とされる三日月に向かって
『天よ、願わくば我に七難八苦を与えたまえ!』と祈った逸話は大変有名です。
しかしながら鹿助は夢破れ、34歳(一説に39歳)にして志半ばでこの世を去ることになります。
その後、山中鹿介の生き様は「忠義の武将」「悲運の英雄」として人々に語り継がれていきます。後に勝海舟は、
「ここ数百年の史上に徴するも、本統の逆舞台に臨んで、従容として事を処理したる者は殆ど皆無だ。先づ有るというならば、山中鹿介と大石良雄(赤穂浪士)であろう。」と評しました。
義を貫くため艱難辛苦に挑む不撓不屈の精神力、敗戦でしんがりを勤めた時でさえ追撃する敵を七たび撃退して七人の敵将を打ち取る強さ。山中鹿助の『武』とは、『強さの秘密』とは何なのでしょうか。
携帯の武道談義は盛り上がり、結論は一つの言葉へと集約されていきます。
『 利 他 』
『利他』とは、他人の福利を願うこと。我がことを離れて他人に利益を与えることを意味します。また仏教では、人々に功徳、利益を施して救済することを指し、「三尺三寸箸」の法話が有名です。三尺三寸の長いお箸では自分の口元に食べものを持ってこれませんが他人には食べさせることができるのです。
人は、時として「私欲」よりも「利他」が大きなパワーを発揮します。私がこのことを感じたのは、東北大震災の救援活動で米軍を指揮した上官のインタビューでした。上官は、過去の作戦と比べ、これほど兵たちが不眠不休にも関わらずエネルギッシュに行動している姿を見たことがないとコメントしていました。
また最近では、ラグビーW杯での日本代表の活躍です。ラグビーには「One for all, All for one」(一人は皆のために、皆は一人のために)という『利他』を意味する有名な言葉があります。そして、日本代表選手の中には、ニュージーランドやトンガなど優勝を狙えるチームに誘われたにも関わらず、敢えて実績のない日本代表となって優勝を目指すことにした選手もいたとか。話題にすら挙がらないチームに入って優勝しようとする心意気こそ武士の歌心、『剣魂歌心』を感じてしまいます!
(なぜか五郎丸選手のFK前のポーズが月に祈る山中鹿介と重なって見えたりしてw)
大儀、忠義、恩義など「義の心」には『利他』があり、優しさや思いやりなど「惻隠の心」の根底にも『利他』があります。私欲や損得でなく、我がことを離れて主君のため、愛するもののために敢えて艱難辛苦に挑む。この『利他』こそが山中鹿助幸盛の強さの秘密であり、義の心や惻隠の心から『利他』のために艱難辛苦に挑む勇猛心を以て『大和魂』と言ってもよいのではないでしょうか。
高見空手では「惻隠の心」を養うことが武道・空手道と指導していますが、同時に「惻隠の心」や「義の心」があってこそ、人として本当の強さを涵養できると考えています。優しさや思いやりから「お友達を守りたい」「強くなってパパとママを幸せにするんだ」等、幼いながらも『利他』の志を持った子供たちは、武道修行を通じて強く逞しく成長していきます。
また、逆また真なりで空手道の世界においても本当に強い方は、気さくで優しい方がたくさんいらっしゃいます。ここで一人でも実名を挙げたら、全員の実名を挙げなければならなくなるので涙を飲んで割愛させて頂きますが、先々月もわざわざ旧交を温めに松山までお越しになられた某先生はじめ、私が懇意にさせて頂いている空手の先生方は、みなさま義理堅くて惻隠の心をお持ちの優しく楽しい方々ばかりです/
最後に、皆さまご存じの大山総裁のお言葉『孝を原点として他を益す』が『利他』を意味することは言うまでもありません。
利他、強さとは優しさなり!拳魂歌心を宗とせよ。
高見彰 押忍!
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来年、東京に行った折には、新宿ルミネの和風ビュッフェレストラン「三尺三寸箸」で山中鹿介の『武;利他』に思いを馳せながらお腹一杯食べたいと思います。