明日から始まる第87回選抜高等学校野球大会に愛媛県からは、今治西高と21世紀枠で松山東高が出場します。松山東高は、旧制松山中時代に夏目漱石が教壇に立ち、小説『坊っちゃん』の舞台にもなった進学校で、正岡子規が創設に関わった野球部から何人も東大に進学しています。また、今治西高も松山東高と並ぶ県内屈指の進学校です。
まさに両校は『文武両道』を地でいく名門校です。
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ところで『文武両道』は素晴らしい言葉ですが、皆さまは本来の意味をご存知でしょうか。もしかして『文』と『武』を相対の位置にある異なったものと認識していませんか?
実は、文武両道の元々の意味は、今と少しニュアンスが異なります。本来は「上に立つ者の心得」「力・武器を持つ者(武士)の心得」として
『人の上に立つ者は、それに相応しい‘文事’と‘武芸’の両方を修めなければならない』
と云う『教え』の言葉でした。
古くは史記に「文事ある者は必ず武備あり」と記され、文武は一体で偏ってはならないとされます。
日本では、源頼朝の鎌倉幕府から明治維新に至るまで武家政権が続き、武士たちは、政(まつりごと)を執る者として、武芸と文事の両道が求められ、両道揃ってこその武士道となりました。
近江聖人と称えられた江戸時代初期の陽明学者である中江藤樹は、
「文と武は元来一徳であって、分かつことができない。したがって、武なき文、文なき武は共に真実の文ではなく、武でもない。」
と述べています。
また「養生訓」で有名な福岡藩の儒学者、貝原益軒は、
「武芸の直接の目的は、戦場の使、日常の使にあるが、究極の目的は、武徳の涵養にある。すなわち武芸により、心身を統治することである。」
と述べています。
これは後に山岡鉄舟が示した武道修行の目的と同じで、現代の武道の在り方にも繋がっております。‘武’は‘文’あってこそ、初めて武徳たるのです。
そして明治維新により武家政治が終焉を迎えて以降、いつしか『文武両道』は「教えの言葉」から、`文'と`武'を異なるものとして学業とスポーツの両方に秀でた人を「評する言葉」へと変わっていきました。
しかし、私たち武道を志す者は、
『武芸と文事の両方を以って武道とし、文武共に修めなければいけない』
と云う「文武両道」本来の意味を忘れてはなりません。文武両道は、高見空手道場訓にある『拳魂歌心』の側面を示す言葉の一つなのですから^ ^
私自身、この言葉にアメリカ留学時、大山泰彦師範に文事でも厳しくシゴかれた日々を改めて噛み締めております、押忍!
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ところで、お世話になっている方から興味深いお話を聞きました。
統計的ソースがないものの経営者はじめ社会で上に立ってご活躍されている方々は、学生時代に武道を経験した方(または現役)が多いと感じるそうです。
これは文武両道『人の上に立つ者は、それに相応しい文事と武芸を修めなさい』の逆また真なりで、文事と武芸の両方を修めた方だからこそ、社会で人の上に立ってリーダーシップを発揮されているのではないでしょうか。
学生時代、学業のみorスポーツのみと、どちらか一方に専念すれば確かによい成績を残こせるかも知れません。しかし、目先でなく長い目で見たら、子供たちにとって文武両道は、とても大切な教えであり「中庸の徳」と考えます。
高見空手の子供達には、真の文武両道を身に付けて、将来、社会で大いに活躍して欲しいと思っています。
最後に武道・スポーツの盛んな我らが郷土の愛媛県を代表して、今治西高と松山東高の野球部の皆さまには、甲子園で「文武両道」の精神を如何なく発揮してご活躍されますよう心からお祈り申し上げます。
高見 彰 押忍!
追伸、
『文武両道』森松道場の平松師範は、松山東高OBで卓球部の主将でした。また、平松師範の御父上は、松山東高野球部の創設者で‘野球’の名付け親でもある正岡子規の従兄弟です^ ^
『文武両道』の英語は何か興味を持ちました。調べたら、様々な表現方法がありました。
・pen and sword
・Scholor-Athlete
・letters and arms
・studies and sports
・the arts of war and peace
・both in academics and sports
・scholarship and the martial arts
・a good student and a good athlete
・both the literary and military arts
…etc
その中で私は、『 Scholor-Athlete 』が、今の意味でいちばんフィットしていると思いました。海外の学校で、Scholor-Athlete(学業成績優秀アスリート)の表彰制度があるからです。ご興味のある方は、試しにキーワード「Scholar-Athlete」で、Google画像検索してください。文武両道のエンブレムがいっぱい表示されます。海外のScholor-Athlete賞に倣い、日本の学校でも文武両道賞を設けたらよいかもしれないですね。
また、シーンごと表現が変わることから、英語には『文武両道』という「熟語」が存在しないことが分かります。一方、日本には『文武両道』と同じ意味の「熟語」がいっぱいありました!
『経文緯武/緯武経文』(けいぶんいぶ/いぶけいぶん)
『允文允武』(いんぶんいんぶ)
『好学尚武』(こうがくしょうぶ)
『右文左武』(ゆうぶんさぶ)
『知勇兼備』(ちゆうけんび)
『文事武備』(ぶんじぶび)
『文武一途』(ぶんぶいっと)
『文武兼資』(ぶんぶけんし)
『文武兼備』(ぶんぶけんび)
…
シーンごと大きく表現が変わる英語と、日本語の類義語の多さから、改めて『文武両道』が東洋文化(特に日本の武士道)の言葉であることがわかります、押忍!
以下のコラムもどうぞ!
■ 文武両道vol.2
■ 武道教育のあり方~中学校の武道必修化を考える